陳腐な言葉でしか表せないほど好き。

性的魅力を感じない。それは私に問題があるのか、私にとっての彼に問題があるのか確かめたくて、昔の愛人に会った。目の前にあるごつごつした手に触れたくて、やわらかい髪に触りたくて、おかしくなりそうだった。私は、好きでもないこの男の人に、こんなに性的魅力を感じている。そのことに驚愕した。そして、この人に恋心を抱くことは許されないんだということが、悲しかった。
自分が傷つくのが怖いだけなのかもしれない。振り回されて、結局うまくいかない恋から、もう一度ふられることから逃げようとしているだけなのかもしれない。好きになってもどうせうまくいかないから。プライドを捨ててもう一度ぶつかることを、損得勘定で考えてる。それでも、見込みのない恋に踏み切る気持ちにはなれなかった。悔しい。彼が私に何の未練も抱いていないのがすごくすごく悔しい。人の心ってどうしたら動かせるんだろう。誰か教えて欲しい。
今でもよく覚えてる。たくさんキスしたこと。小さな頭を腕にすっぽり抱え込んで眠ったこと。優しくて優しくて、錯覚でも、愛を体中に感じたこと。肌がぴったりとすいつく感触。愛おしくて、丸一日でもくっついていたいと思った。体中にキスしたいと思った。それくらい、好きだった。「好き」と言えないのが切なくて。いつも恥ずかしくて言えない「好き」が、溢れ出していくのを止められなかった。身体を離すのが惜しくて、いつも遅刻ぎりぎりだった。眠る彼の唇にキスをして、目を覚ました彼に抱きしめられた。思い出すだけで、鳥肌が立つほど幸せだ。

私は今日浮気しかけたんだよ?どうしてそんなに呑気にしていられるの?鈍感さにすごく苛立つ。気楽な調子のメールに苛立つ。そう、私の感じているのは苛立ち。私がどんなこと考えてるかなんてこれっぽっちも気づかない哀れな彼に対する、苛立ち。

もうどうにも叶わないのかな。恋人じゃなくてもいいから、もう一度抱かれたい。雨のようにたくさんのキスをして、融けて一つになるくらい強く長く抱きしめたい。体中に触れて欲しい。私の身体で性欲を満たしてほしい。
こんな風に強く思う自分が怖い。