別離

一緒に吹けないならこの場所にいる価値はない、と思っていた。その相手が、去ろうとしている。
もう二度と隣で吹けないことがとてつもなく哀しい。ものすごく大きなものが何時の間にか手をすり抜けていってしまったような。まだ続くと思っていた道が、断ち切られたような。ショックだった。いつも私を引き留めてくれたのに。別れるのは、自分の方からだと思っていたのに。まだ続くと思っていたから、どこか少し余裕を持っていた。どうせなら最期だと覚悟して吹きたかった。隣で吹くことが私にとってどんなに大事で素敵で嬉しいことなのか、音に乗せて伝えたかった。本当に心地よかったのに。あんなふうに信頼しきって、変なプライドや見栄や意地をもたなくてよくて、甘えさせてくれて、相手の音だけを信じて吹ける相手には、きっともう出会えない。
いろんなことを教えてもらった。新しい考えで道を照らしてくれた。目を開かせてくれた。彼に出会ったことが私の頭の中を本当に大きく変えたんだと思う。たくさんの刺激を受けて、たくさん勉強した。
苦しかったけど、涙が枯れるほど恋した。やっと今穏やかな気持ちで逢いたいと思えるのに。
こんなに大きな影響力を持って私に立ちあらわれる人は、初めてだった。出会えた幸運にはとてつもなく感謝している。彼に出会えただけでも、東大に入った価値はあるのかもしれない。そう思ってた。
寂しいな。寂しい。行かないで。